大企業向けに営業を行う際は、一般的な営業と異なる戦略と視点が求められます。エンタープライズ営業は、高い収益性や継続的な関係構築が期待できる反面、意思決定が複雑で長期化するなど、特有の難しさもあるのです。成功のためには、顧客理解を深め、適切な計画とスキルを駆使する必要があります。
本記事では、エンタープライズ営業の定義、メリットやデメリット、特徴、求められるスキル、成果につなげるためのポイントまで体系的に解説します。営業活動を見直し、より高い成果を目指したい方にとって、役立つ情報をお届けしますので、ぜひ参考にしてください。
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目次
エンタープライズ営業とは

大企業向け営業を理解することは、これから戦略を見直す営業担当者にとって重要です。まずは、定義、SMB営業との違い、そして注目される背景について、それぞれ解説します。
エンタープライズ営業の定義
エンタープライズ営業は大企業や官公庁などの組織に対し、長期的な視野で価値を提案する手法です。取引額が高くなる傾向にあり、契約後の継続的なリレーション構築が前提となります。具体的には、一度の契約で終わらせず、社内の複数部署や関連会社へ横展開し、継続的な受注につなげることが期待されます。
単なる価格や機能で差別化するのではなく、顧客が抱える課題や戦略を深く理解し、最適な解決策を提示する姿勢が求められるのが特徴です。検討段階から導入後まで一貫して寄り添う姿勢を見せることで、信頼関係が築かれ、安定した収益源として育てられます。
SMB営業との違い
SMB営業は、意思決定者が少なく、意思決定のスピードも速い傾向にあります。したがって、商談期間が短く、短期的な成果を上げやすいことが利点です。
一方で、エンタープライズ営業は、関係部署や決裁者が多く、検討期間が長期化する傾向があります。さらに、案件数が限られるため、一件ごとの重要度が高く、競合も増えるため戦略性がより問われます。
また、単純な価格競争では差別化しにくく、顧客の経営課題を深く理解する力が欠かせません。短期志向ではなく、長期的なパートナーシップを意識する点が大きな違いといえるでしょう。
注目される背景
近年、SMB市場は競争が激化し、価格だけで選ばれる傾向が強まっています。一方で、大企業市場は高い収益性や長期的な契約が見込めるため、成長戦略の中核として位置付ける企業が増えています。
さらに、SaaSやクラウドサービスが普及し、大規模な組織も柔軟に外部リソースを導入するケースが増え、商機が広がりました。こうした背景から、従来の営業スタイルを見直し、より高付加価値な提案が可能なエンタープライズ営業に取り組む動きが加速しています。今後もこの流れは続くと考えられます。
エンタープライズ営業のメリット

大企業向け営業は、難易度の高さと引き換えに非常に多くの価値が得られる営業手法です。リスクを理解した上で戦略的に挑むことで、組織全体の成長に寄与する可能性が広がります。ここでは、代表的なメリットを順番に見ていきましょう。
高い売上規模が期待できる取引で営業効率も向上する
最大の魅力は一件あたりの取引金額の大きさにあります。大企業は年間予算が潤沢で、導入するサービスや製品の規模も大きいため、高額な契約につながりやすいのが特徴です。
さらに、複数の部門にわたるシステムやソリューションの導入も一般的で、受注後の横展開による売上拡大が見込めます。結果的に、少ない案件数でも全体の目標売上に近づけることが可能になり、営業活動の効率性も向上します。
加えて、導入後のアドオン提案や更新契約を積み重ねることで、顧客単価を継続的に高めるチャンスも広がるのです。したがって、組織全体にとっても高収益化が期待できる領域といえるでしょう。
長期的な関係性が構築でき顧客基盤の安定化につながる
大企業との取引は単発で終わらず、長期的な関係へ発展する傾向が強いです。一度信頼関係を築ければ、長期契約やアップセルの機会が継続的に生まれるため、売上の安定化に寄与します。とくに、導入後の定期的なサポートやフォローを通じて競合が入り込みにくい状況を作れるのも大きな利点です。
さらに、信頼度が高まるほど要望を事前に把握し、提案に反映しやすくなるため、他社との差別化にも直結します。営業活動の効率が高まり、担当者のモチベーション向上にもつながるでしょう。顧客基盤が強固になり、経営リスクを抑える効果も得られる点が特徴です。
ブランド力の向上に貢献し次の商談獲得につながる
大企業との取引実績は、自社の信頼性や市場での評価を高める強力な武器になります。著名な組織との契約があると営業資料やウェブサイトでアピールしやすく、潜在顧客への訴求力が高まります。
さらに、業界内でのブランドイメージが向上し、紹介や口コミを通じて新たな案件が発生する可能性も高まるでしょう。信頼性が増すことで、営業活動がスムーズになり、受注までのプロセス短縮にも寄与します。
したがって、目先の売上だけではなく、長期的な視点で営業活動全体の質を底上げできるのがエンタープライズ営業の大きな強みです。市場での立ち位置を高めたい企業にとって非常に価値ある成果といえるでしょう。
エンタープライズ営業のデメリット

大企業向け営業には数々のメリットがある一方で、難しさや負担が大きい側面も無視できません。これらのリスクを理解しておくことで、適切な備えと戦略が立てやすくなります。ここでは代表的なデメリットを詳しく説明します。
商談期間が長く成果が見えるまで時間がかかる
デメリットとしてまず挙げられるのは、商談が長期化しやすいという点です。大企業は意思決定者が複数おり、各部署の合意形成に時間がかかります。検討に費やす期間が半年以上に及ぶことも珍しくありません。したがって、営業担当者は短期間で結果を出しづらく、モチベーションを保つのが難しい局面もあります。
さらに、商談が長期化することで案件数の管理やリソース配分が複雑になり、チーム全体への負担が増大します。目に見える成果が出るまでに多くのコストや時間を要するため、短期志向の企業にとっては不向きだと感じる場面もあるでしょう。長期視点で取り組む覚悟が欠かせません。
失注した際の損失が大きく精神的な負担も重い
大規模な案件であるがゆえに、失注した場合のダメージが非常に大きい点も課題です。中小企業向けの営業では、一件ごとの売上規模が小さいため、多少の失注があっても全体に大きな影響はありません。
しかし、エンタープライズ営業の場合、一件にかけるリソースが膨大である分、失注時の損失は金銭的にも心理的にも非常に重くのしかかります。営業担当者はプレッシャーを感じやすく、心身の負担を抱えることも少なくありません。
さらに、競合が多く、意思決定プロセスが複雑なため、失注の理由が明確に見えにくいこともあります。リスクを認識したうえで、複数のパイプラインを持つなど対策を講じていくことが必要でしょう。
法人営業がプレッシャーに感じる方は、こちらの記事もご覧ください。
法人営業がきついと感じる理由と克服法|続ける価値ややりがいも詳しく解説
社内調整やフォロー体制の負荷が大きくなる
社内リソースや体制面への負荷が増える点も見逃せません。大企業との取引は、複雑な要望や高度なカスタマイズが発生しやすく、それに伴い社内の開発や運用チームへの負担が増します。
営業担当者は社内外の調整役として、関係各所と連携しながらプロジェクトを進行させる必要があります。結果として、担当者の業務範囲が広がり、通常業務とのバランスを取るのが難しくなるケースも少なくありません。
さらに、導入後もサポートや改善提案が求められるため、継続的なリソース確保が課題となります。組織全体で取り組む姿勢が欠かせないのがエンタープライズ営業の特性です。
エンタープライズ営業の特徴

大企業向け営業には、他の営業手法にはない独自の特性があります。営業戦略を適切に設計するためには、特徴を把握しておくことが重要です。それぞれのポイントを一つずつ解説します。
顧客数が少なく競合が多い市場環境に置かれる
最初に挙げられる特徴は、ターゲットとなる顧客数の少なさです。大企業や官公庁などの対象は限られているため、潜在顧客の絶対数が中小企業市場に比べて圧倒的に少なくなります。
したがって、ひとつの案件の重要性が高く、失注リスクを分散しづらい状況に置かれます。加えて、規模の大きい顧客を狙う営業は各社が力を入れている分野であり、競合が多く激しい争いが繰り広げられるでしょう。
競合優位性を示すためには、差別化された提案や独自の価値を明確にする工夫が必要です。市場規模の制約を理解したうえで、効率的なアプローチを徹底する姿勢が欠かせません。
検討期間が長く短期的な成果を得にくい
エンタープライズ営業は商談期間が長期化する傾向が顕著です。意思決定に関与する部署が複数にまたがり、それぞれの調整や承認が必要なため、短期間での成約は難しくなります。
さらに、組織としての予算策定や年間計画に合わせて提案する必要があるため、タイミングを見極める力が問われます。営業担当者は長い検討期間中も顧客との接点を維持し、関係性を強化し続けることが必要です。
短期的な成果に一喜一憂せず、継続的な活動を行う心構えが求められます。特徴を理解し、持続可能な営業活動を展開する意識を持ちましょう。
売上規模が大きく安定した収益が見込める
三つ目の特徴は、売上規模の大きさです。大企業は導入規模が広く、複数の部門で利用されるケースも多いため、一件あたりの契約金額が高額になる傾向にあります。
さらに、長期契約や継続的なアップセルが発生しやすく、安定した収益をもたらしやすいのも強みです。営業活動におけるコストパフォーマンスが高まりやすく、組織全体の売上構造の安定化に寄与します。
ただし、獲得するまでの難易度も高いため、しっかりとした戦略と準備が不可欠です。高リスク・高リターンの特性がある点を念頭に置き、着実に進めていく必要があります。
関与人数が多く複雑な意思決定が行われる
関与人数の多さも特徴といえるでしょう。大企業の意思決定には、担当者レベルから部門長、経営層まで多くの関係者が関わります。利害や立場の異なる関係者をまとめ、納得感のある提案を作り上げるのは簡単ではありません。
営業担当者は社内外の調整役として、柔軟に対応する力が求められます。関与者の意向を把握し、全体の方向性を見極めながら進めることで、成約の可能性が高まります。
複雑な意思決定プロセスをスムーズに運ぶためには、事前の情報収集や相関図の作成が有効です。調整力を発揮する場面が多い点を理解しておきましょう。
高度なカスタマイズが求められ柔軟性が試される
最後に、エンタープライズ営業では顧客ごとの高度なカスタマイズが必要になる場面が多いです。大企業は業界や業務内容が多様であり、標準的な提案では満足されにくい傾向があります。したがって、相手の状況に応じて提案内容や導入方法を柔軟に設計し、最適化する能力が問われるのです。
営業担当者はヒアリングや分析を重ね、個別性の高い提案書を作り上げる必要があります。この過程で社内の開発や運用チームとも連携を密にするため、調整力やプロジェクトマネジメント力も重要です。柔軟な対応が成否を分ける要素になる点を意識しながら取り組みましょう。
エンタープライズ営業に必要なスキル

大企業向け営業で成果を出すためには、一般的な営業スキルだけでは足りません。長期的な視野と戦略的思考を支える、専門的な能力が必要になります。
ここではとくに重要なスキルを5つ取り上げて説明します。
情報収集力を磨き顧客理解を深める姿勢が重要になる
まず、情報収集力は不可欠なスキルです。大企業は意思決定のプロセスが複雑であり、誰がキーマンか、どのような課題を抱えているかを把握しなければなりません。事前に公開情報や業界動向を調べ、顧客の戦略や計画を理解することで、的確な提案が可能になります。
さらに、商談中も担当者からの発言や社内の動きを観察し、見えないニーズまで把握する力が必要です。積み重ねが、信頼される提案につながります。常にアンテナを張り、情報源を広げる習慣を持つことで、顧客の変化にも柔軟に対応できるでしょう。
計画立案力を発揮して長期的な戦略を描く
次に、計画立案力が問われます。エンタープライズ営業は商談期間が長いため、短期的な成果だけを追っても期待通りの結果は得られません。いつどのタイミングで提案するのか、どの部署とどの順序で交渉するのかといった具体的な計画を立て、進捗を管理する能力が求められます。
また、予算策定や決裁のタイミングに合わせて行動を調整することも重要です。途中で想定外の事態が起きても、すぐに軌道修正できる柔軟性も備えておきたいところです。戦略性を持つことで、商談が停滞するリスクを減らし、着実にゴールへ近づけます。
交渉力を駆使して双方の利益を最大化する
三つ目は、交渉力です。大企業は複数の関係者が関わるため、各部署や担当者の利害が一致しないことも珍しくありません。すなわち、自社の利益を守りつつ、相手の要望も満たす提案をまとめ上げる力が必要なのです。
強引に自社の条件を押し通すのではなく、相手の立場や状況に配慮しながら、合意点を見つける柔軟な対応が求められます。価格交渉や契約条件の調整なども交渉力が問われる場面です。冷静に状況を分析し、感情的にならず論理的に説明できるよう準備しておくことで、商談の成功率が高まるでしょう。
関係構築力を発揮し長期的な信頼を築く
次に、関係構築力も重要なスキルです。大企業との取引は長期戦であり、担当者や関係者との信頼関係がなければ前に進みません。初回の訪問で終わらせず、定期的に訪問や連絡を重ね、相手が求める情報や提案をタイムリーに届ける姿勢が大切です。
さらに、担当者が異動や退職した際に備えて、複数の関係者と関係を持ち、リスクを分散しておくことも有効です。こうした地道な取り組みが、競合に負けない強固な関係につながります。単なる取引先ではなく、パートナーとして認められる存在を目指す意識が必要でしょう。
コミュニケーション力を活用して調整役を担う
最後に、コミュニケーション力が大切です。エンタープライズ営業では、社内外の関係者をまとめる役割を担うことが多くなります。顧客の担当者、経営層、社内の開発部門やサポートチームなど、多くのステークホルダーと調整しながら話を進める場面が頻繁にあります。
したがって、相手の意見を引き出し、理解しやすい言葉で伝える力が必要です。誤解や行き違いを防ぎ、全体の方向性を揃えるための潤滑油となる役割が求められます。論理的かつ柔らかい表現を使い分け、状況に応じたコミュニケーションを取ることで、商談が円滑に進むでしょう。
エンタープライズ営業を成功に導くポイント

大企業向け営業は難易度が高い分、成果につながる戦略や具体的な行動が重要になります。ここでは、とくに意識して取り組むべき成功のためのポイントを5つ紹介します。
ABM(アカウントベースドマーケティング)を活用して精度を高める
まず、ABM(アカウントベースドマーケティング)の活用は有効な手段です。ターゲット企業ごとに戦略を設計し、個別にアプローチする方法がエンタープライズ営業と非常に相性が良いといえます。対象が限られているため、一件ごとの価値が大きく、広く浅いマーケティングよりも深く狙うほうが効率的です。
具体的には、企業ごとの課題や状況に応じたコンテンツを用意し、タイミングを見計らって情報提供します。さらに、営業とマーケティングが連携し、接触から提案まで一貫して戦略を共有することが重要です。こうした取り組みが、的確な提案につながり、成約率の向上にも結びつきます。
キーマンとの接点を作り影響力を発揮する
次に、キーマンとの接点作りに注力することが不可欠です。大企業は意思決定に複数の関係者が関わりますが、最終的な影響力を持つ人物を見極めて関係を築くことがポイントとなります。
具体的には、担当者からヒアリングを重ねて決裁者や影響力のある部門長を把握し、紹介やイベント参加などを通じて接触の機会を増やします。形式的な名刺交換だけでなく、定期的に有益な情報を提供し、相談される存在を目指す姿勢が大切です。キーマンと信頼関係を構築できれば、社内調整がスムーズに進み、競合よりも優位に立つことが可能になるでしょう。
営業におけるヒアリングについて、もう少し詳しく知りたい方はこちらの記事もご覧ください。
営業ヒアリングのコツとは?ヒアリングシートの項目や役立つフレームワークも紹介
相関図を描いて関係性を可視化し調整する
三つ目は、相関図の作成です。関係者が多いエンタープライズ営業では、誰がどのような立場でどの程度の影響力を持っているかを可視化することで、調整がしやすくなります。具体的には、部署間の関係や担当者同士の力関係、賛成・反対の立場などを図に落とし込みます。
相関図を基に、味方を増やすための働きかけや、反対意見の緩和策を練ることが可能です。社内の意思決定構造を把握し、戦略的に動くことで、複雑な商談を円滑に進めやすくなります。相関図は常に更新し、変化に対応できるよう準備しておくとよいでしょう。
ターゲットごとの戦略を練り最適化する
次に、ターゲットごとに戦略を細かく練ることが必要です。すべての顧客に同じ提案をしても、期待する成果は得られません。業界、企業文化、現在の課題に合わせて提案の内容やアプローチ方法を柔軟に変えることが重要です。
たとえば、コスト削減を重視する企業にはROIの高い提案を、成長戦略を重視する企業には拡張性の高いサービスを訴求するなど、最適化された提案が求められます。さらに、短期・中期・長期とフェーズごとの目標設定も有効です。このように、一社一社に合わせて戦略を設計することで、成果に結びつきやすくなります。
営業支援ツールを活用して効率と精度を高める
最後に、営業支援ツールの活用は大きな効果を発揮します。顧客情報や過去のやり取りを一元管理し、状況に応じた適切なタイミングでアプローチできるようになります。SFAやCRMといったツールを活用することで、担当者の経験や勘に頼らず、データに基づいた営業が可能になるのが強みです。
さらに、社内での情報共有がスムーズになり、誰が対応しても一定の品質を保てる体制が整います。こうした仕組みを整えることで、担当者の負担を軽減しながら、商談の成功確率を高めることが可能です。効率化と質の向上を両立させるために積極的に活用したいポイントです。
まとめ
エンタープライズ営業は、大企業向けという特性上、高い収益性と安定した関係構築が可能な一方で、長期的な取り組みや戦略性が求められます。本記事では、定義からメリット・デメリット、特徴、必要なスキル、成功のポイントまで詳しく解説してきました。
大企業の複雑な意思決定に対応するためには、情報収集や計画立案、柔軟な提案力が欠かせません。さらに、信頼関係を築く姿勢と社内外の調整力が成果を左右します。戦略的に準備を重ね、組織全体で取り組むことで、大きな成果につながるでしょう。
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